地域フォーミュラリと供給レジリエンス — 「最安価品リスト」ではない設計へ
出典: 厚生労働省 行動計画等の公表資料(ページ末尾に明記)
この記事の要点:地域フォーミュラリは、有効性・安全性・経済性等を総合的に評価した医薬品集・使用方針であり、最安価な一品への集約リストではありません。供給の観点からは、第一候補・第二候補の供給源の分散、供給悪化時の見直し条件、通常復帰の手順を地域で事前に共有しておくことが、地域全体の供給レジリエンスを高めることにつながると考えられます。一方で、推奨薬を単一銘柄へ強く集約すると、その製品の停止時に地域全体へ影響が及ぶ集中リスクが生じ得ます。
フォーミュラリは「最安価品リスト」ではない
地域フォーミュラリは、処方を機械的に制限するものではなく、患者の状態と医療従事者の判断を前提に運用されます。フォーミュラリ掲載薬以外の処方も可能であり、掲載はあくまで参考方針です。
供給面では、在庫と情報共有の考え方を揃えられる
薬効群ごとに第一候補・第二候補を整理し、地域内で使用方針を共有すれば、採用品目と在庫を整理しやすくなります。供給悪化時にどの薬へ切り替えるか、誰が情報を更新するかを事前に共有できる点も、供給面での意義といえます。
集約は集中リスクを生み得る
推奨薬を単一銘柄へ強く集約すると、その製品の停止時に地域全体が影響を受ける可能性があります。供給を考慮したフォーミュラリの運用では、臨床・経済評価に加えて、供給者数、市場シェア、製造所・原薬、増産余力、第二候補の確認が論点になります。
| 運用項目 | 考えられる設計 |
| 第一候補 | 臨床的・経済的妥当性と現時点の供給状況を確認 |
| 第二候補 | 第一候補と異なるメーカー・製造所・供給源を優先的に検討 |
| 供給トリガー | 限定出荷、通常出荷銘柄数、在庫日数等で見直し条件を設定 |
| 一時逸脱 | 供給悪化時に推奨から外れることを許容する手順 |
| 通常復帰 | 供給回復後に需要を急激に戻さない条件を設定 |
| 更新責任 | 原文管理、供給情報確認、地域周知の担当を明確化 |
SCUELの提案レジリエンス調整型フォーミュラリ:推奨薬の価値評価に「供給の安定性」を加え、第一候補・第二候補・例外薬を固定リストではなく、供給状況に応じて更新する運用の提案です。これは厚生労働省通知等の定義ではなく、SCUELのデータ活用に基づく実務上の提案として示すものです。
フォーミュラリ供給チェックでは、公開されている地域フォーミュラリの推奨成分と日々の供給状況を突合し、推奨薬の供給悪化を確認できます。
薬剤師・卸・メーカーの役割の整理
以下は、厚生労働省の行動計画等で望ましいとされている行動を、SCUELデータとの対応関係で整理したものです[1]。個々の対応は、各施設・各社の状況に応じた判断が前提です。
薬剤師・医療機関
- 品名だけでなく、成分、規格、剤形、メーカー単位で供給状況を把握する(品目カルテ・成分別サマリー)。
- 施設在庫を数量ではなく在庫日数で把握し、発注残、継続患者数、使用予定量とあわせて確認する。
- 複数卸への重複発注や通常使用量を大きく超える発注を避け、実需に基づく注文を行う。
- 同一成分だけでなく、別規格・別剤形・同効薬の代替可能性を事前に整理する(薬効分類別)。
- 地域の医療機関・薬局と、供給情報、分譲、患者への説明の手順を共有する(患者向け説明の指針)。
医薬品卸
- メーカー出荷情報、物流在庫、医療現場の実需を接続する。
- 納入実績だけでなく、患者数、継続治療、必要日数を考慮した配分を行う。
- 入荷予定、納品可能量、継続納品の可否、代替品の供給余力を分けて説明する。
- 代替提案による新たな需要集中を予測し、地域内の偏在を抑える(需要シフト・地域レポート)。
- メーカー再編・品目承継の移行期に、得意先への情報提供と在庫移行を支える。
製薬メーカー
- 原薬、資材、製造所、委託先、品質試験、物流のリスクを可視化する。
- 品目別採算だけでなく、製造ラインの切替負荷と供給継続責任を含めてポートフォリオを検討する。
- 競合停止、季節需要、卸在庫の変化を早期に検知し、需要シフトを生産計画に反映する(需要シフト・供給インパクト)。
- 増産可能量、増産までの期間、原薬追加調達の可否を平時から把握する(供給余力)。
- 品目統合・承継・委受託を、供給を切らさない移行計画として実施する。
地域で検討するための材料
地域フォーミュラリの検討は、対象領域の選定から始まります。「どの疾患・薬効が地域で多く使われているか」「切り替えの余地はどの程度か」「採用候補の供給は安定しているか」を、公開データで順に確認できます。
進め方の目安: (1)地域の疾病構造と処方傾向を把握する → (2)使用量が多く、後発品や代替薬への切り替え余地が大きい薬効から優先順位を付ける → (3)採用候補成分の供給安定性を確認し、供給悪化時の見直し条件をあらかじめ決めておく。
※医療費や指数の高低それ自体は医療の良し悪しを示すものではありません。データは把握の材料であり、採用判断は各地域の協議体・医療従事者の判断が優先されます。
よくある質問
- Q. 地域フォーミュラリは安定供給に役立ちますか?
- 推奨薬、第二候補、供給悪化時の見直し条件を地域で共有する基盤になり得ます。一方で、単一銘柄への強い集約は集中リスクを生む可能性があり、供給状況の確認とあわせた運用が論点になります。
- Q. フォーミュラリ掲載薬しか処方できませんか?
- いいえ。フォーミュラリは医薬品選択の参考方針であり、患者の状態と医療従事者の判断が優先されます。
参考資料(一次資料)
- 厚生労働省「医療用医薬品の供給問題への対応に係る行動計画」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/kouhatu-iyaku/index_00006.html
本ページの位置付け・注記
本ページは、公表されている法令・通知・検討会資料等に基づく解説・論点整理であり、特定の政策や企業活動の当否を断定するものではありません。個別の診療・調剤・購買・経営上の判断は、各医療機関・薬局・企業の状況に応じて行われることが前提です。制度情報は作成時点(2026-07-25)の確認によります。