市場の分散と少量多品目生産 — なぜ増産が難しい構造になったのか
出典: 厚生労働省 産業構造検討会報告書(2024年)・大臣要請資料(2024年)
この記事の要点:後発医薬品市場は「少数の巨大企業による寡占」でも「各社が十分な規模を持つ競争市場」でもなく、低シェアの多数企業が少量多品目を分け合う市場と整理されています[1][2]。この構造は、品目切替による製造時間の圧迫、品質管理の複雑化、他社停止時の増産の難しさと結びついています。供給者数のリスクは「多いほど安全」ではなく、U字型で考える必要があります。
企業数は多いが、市場シェアは低く分散している
厚労省資料2024年の大臣要請資料では、後発品市場の上位9社が数量の50%を占める一方、最大企業でもシェアは14%未満とされました。残りの多数企業は小さなシェアを分け合っています[2]。
| 指標 | 大臣要請資料が示した状況 | 政策的な読み方 |
| 企業別数量シェア | 上位9社で50%。最大企業も14%未満 | 多数企業が小さいシェアで競争し、規模の経済を得にくい |
| 1社供給の成分 | 789成分中250成分 | 単一供給リスクが大きい領域が存在 |
| 8社以上供給の成分 | 166成分 | 供給者が多く、各社シェアが小さい領域も存在 |
| 5社供給の成分 | 53成分。上位3社に一定のシェア分布 | 「5社程度」が参考像として示された根拠 |
いま、供給不安情報のある成分の「供給社数」はどう分布しているか(毎日自動更新)
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出典: 厚生労働省 医療用医薬品供給状況報告に基づくSCUEL集計(
供給モニターと同一データ)。対象は供給状況報告に品目が掲載されている成分(先発のみの成分・配合剤等を含む)で、後発医薬品789成分を対象とした大臣要請資料の数値とは母集団が異なります。単一供給には先発品のみの成分も多く含まれるため、上表の数値と直接比較はできません。
各成分の内訳は
成分別サマリーで確認できます。
「少量多品目生産」はなぜ広がったのか
少量多品目生産は、複数の制度・市場要因が重なって定着したと整理されています[1]。
- 2005年施行の薬事法改正で製造委受託が可能となり、共同開発により参入コストが低下した。
- 新規収載直後は比較的収益性が高く、多くの企業が新規品目の収載を希望した。
- 同一成分・同一規格に多数企業が参入する一方、参入時の供給能力を十分に担保する仕組みが弱かった。
- 収載後は継続供給が求められ、採算が低下した品目も容易に退出できなかった。
- 既存品の低収益を新規収載品で補う行動が、さらに品目数を増やした。
その結果、一社の中で多数の品目を少量ずつ製造し、製造計画が複雑化する構造が定着しました。なお「少量多品目生産」と「小ロット多品種生産」はほぼ同じ特徴を指しますが、厚生労働省の資料で用いられる表現は「少量多品目生産」です。
供給者数のリスクは「U字型」で考える
供給者が少なすぎれば、一社停止時の代替が限られます。しかし多すぎても、各社のシェアが小さくなり、生産効率、採算、在庫、増産余力が低下する可能性があります。安定供給は「企業数が多いほど安全」でも「少ないほど効率的」でもありません。
| 供給構造 | 主な長所 | 主なリスク |
| 1〜2社 | 規模の経済を得やすい | 単一供給・製造所集中リスクが高い |
| 適度な複数社 | 一定の規模と代替可能性を両立しやすい | シェア配分、原薬・製造所の独立性の確認が必要 |
| 多数社・低シェア | 銘柄数は多い | 過当競争、少量生産、低収益、同じ委託先への集中が起こり得る |
「1成分5社」は法的な基準ではない
2024年の大臣要請資料は、5社供給の53成分で、シェア1位40〜60%、2位20〜30%、3位10〜20%などの分布が見られたことから、成分ごとに5社程度が安定供給に資するのではないかと問題提起しました[2]。
ただし、これは全成分に一律に適用される基準ではありません。市場規模、剤形、製造難度、原薬の供給源、実際の製造所、季節変動、安定確保上の重要性により、望ましい構造は成分ごとに異なると考えられます。社数が5社でも同一原薬・同一製造所に依存していれば、実質的な冗長性は限られます。
表現上の注意:厚生労働省は、5社供給成分のシェア構造を参考に「成分ごとに5社程度」を安定供給に資する一つの目安として提示しました。これは法的基準ではなく、成分特性や製造所・原薬の集中を含めて判断する必要がある、という位置付けで読むことが適切です。
少量多品目生産が製造・品質・増産余力に与える影響
品目切替が製造時間を圧迫する
製造ラインで品目を切り替えるたびに、原料・資材交換、設備洗浄、ラインクリアランス、製造記録、試験、出荷判定が必要です。少量の製品を多数切り替えて製造すると、製品を作る時間以外の工程が増え、設備の実効能力が下がります。
品質管理の複雑性が増す
品目ごとに承認書、製造方法、試験法、原料、資材、変更管理が異なります。品目数が増えるほど、教育、逸脱管理、記録照査、委託先管理、バリデーションに必要な人員と専門性が増えます。2024年報告書は、管理業務の増大とリソース不足が品質不良リスクに結びつき得ると整理しています[1]。
他社停止時に増産が難しい
製造ラインが平時から能力上限近くで稼働し、原薬・資材も通常需要分しか確保していなければ、競合品の供給停止による注文急増を吸収することが難しくなります。増産には、原薬調達、製造枠の組み替え、品質試験、出荷判定の時間が必要です。需要は数日で移動しても、供給能力は同じ速度では増えません。各社の増産対応力は供給余力分析で、実際の需要移動は需要シフト分析で確認できます。
よくある質問
- Q. 少量多品目生産と小ロット多品種生産は同じ意味ですか?
- ほぼ同じ特徴を指します。厚生労働省の資料で用いられる表現は「少量多品目生産」です。
- Q. なぜ同じ成分・規格に多数の後発品があるのですか?
- 製造委受託・共同開発による参入コスト低下、新規収載時の収益性、使用促進政策、退出の難しさが重なったためと整理されています。
- Q. 「1成分5社」が政府の正式基準ですか?
- いいえ。2024年の大臣要請で示された政策上の目安・問題提起であり、法的基準ではありません。成分の市場規模や製造難度を考慮する必要があります。
参考資料(一次資料)
- 厚生労働省「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会 報告書」(2024年5月22日)
https://www.mhlw.go.jp/content/10807000/001256227.pdf - 厚生労働省「後発医薬品の産業構造改革に向けた大臣要請」(2024年7月4日)
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001271169.pdf
本ページの位置付け・注記
本ページは、公表されている法令・通知・検討会資料等に基づく解説・論点整理であり、特定の政策や企業活動の当否を断定するものではありません。個別の診療・調剤・購買・経営上の判断は、各医療機関・薬局・企業の状況に応じて行われることが前提です。制度情報は作成時点(2026-07-25)の確認によります。