定着しやすい職場は“データで見える”——夜勤・経験年数・加算から読み解く、介護施設の離職リスク
ミーカンパニー株式会社(本社:東京都港区、代表取締役:前田 健太郎、以下「当社」)は、介護データベース「SCUEL(スクエル)」を用いて、介護施設における職員の退職傾向と施設の構造的特徴との関連を分析しました。
本分析では、職員の経験年数構成・夜勤体制・加算の届け出状況の3つの切り口から、短期離職の予兆を捉える視点を抽出します。人材紹介・派遣業務におけるマッチング精度向上はもちろん、介護事業者にとっても職員定着のための組織づくりや運営体制の見直しに役立つ示唆を得られる内容となっています。加えて、今回の分析結果をわかりやすくまとめた無料のホワイトペーパーも公開。都道府県別・施設種別における「夜勤体制」「経験年数の構成」「看取り加算の届出状況」を比較し、データに基づいた判断を支援します。

■介護業界が直面する「採用しても続かない」現実
慢性的な人材不足が続く介護業界では、年間約15万人が離職しているとも言われています(厚生労働省「令和4年度 介護労働実態調査」より)。
なかでも“入職から1年以内の早期離職”は、事業者にとって採用・育成コストの損失であるとともに、現場の疲弊や既存職員の退職連鎖にもつながりかねない深刻な課題です。
介護人材の定着は、紹介・派遣会社にとっても、営業効率や信頼性への影響が大きく、双方にとって「続く採用」は最重要テーマと言えます。採用しても1年以内に離職してしまうケースが続けば、「クライアントからの信頼低下・手数料の減収リスク・営業担当の疲弊」といった悪循環に陥りかねません。
■SCUEL分析から見えてきた、離職リスクの3つの兆し
1. 「経験1年未満」の職員数が多い施設に注意
「1年未満の常勤職員数」と「施設ごとの退職者合計数」の関係について相関分析を行ったところ、介護職員・看護職員を問わず、特に経験年数が「1年未満」の常勤職員が多い施設では、退職者数も増える傾向が確認できました。
また特に介護職員においてその傾向は顕著であり、短期離職が連鎖しやすい環境にあることを示唆しています。これは、単に「新人が多いから離職する」のではなく、教育体制やマネジメント、現場の受け入れ余力といった構造的な課題が背後にある可能性も考えられます。
マッチング精度を高めるためには、「今、どの層のスタッフが多いか」を事前に把握することが重要で、特に経験の浅いスタッフが多い職場では、新たに紹介・派遣する人材へのフォロー体制や、既存職員の指導負担なども含めて、慎重なマッチング判断が求められます。

退職者数との相関係数
・介護職員
常勤_1年未満:0.90 常勤_1年以上3年未満:0.90 常勤_3年以上5年未満:0.87
常勤_5年以上10年未満:0.81 常勤_10年以上:0.49
・看護職員
常勤_1年未満:0.85 常勤_1年以上3年未満:0.84 常勤_3年以上5年未満:0.69
常勤_5年以上10年未満:0.67 常勤_10年以上:0.19
経験年数から見える“地域差”と定着リスクの兆し
介護職・看護職の経験年数構成を都道府県別・サービス種別・職種別に見ると、「1年未満の従業員の割合」には地域ごとに大きな差があることが分かりました。特に有料老人ホーム(特定施設入居者生活介護)では、その差が顕著です。例えば、看護職員の1年未満割合は、東京都で33%と非常に高い一方で、徳島県ではわずか6%。実に27ポイントもの開きがあり、施設の採用方針や人材の流動性に大きな違いが見られます。
特定施設入居者生活介護(有料老人ホーム)
- 介護職員:全国平均(14%)、最大値(栃木県:25%)、最小値(徳島県:6%)と、19pt差
- 看護職員:全国平均(16%)、最大値(東京都:33%)、最小値(徳島県:6%)と、27pt差
介護老人福祉施設(特養)
- 介護職員:全国平均(10%)、最大値(千葉県:15%)、最小値(秋田県:6%)と、9pt差
- 看護職員:全国平均(12%)、最大値(栃木県:16%)、最小値(鳥取県・島根県:8%)と、8pt差
介護老人保健施設サービス(老健)
- 介護職員:全国平均(9%)、最大値(奈良県:13%)、最小値(福島県・新潟県:4%)と、9pt差
- 看護職員:全国平均(8%)、最大値(沖縄県:13%)、最小値(山形県・福島県:4%)と、9pt差
*( )内の数値:1年未満の従業員の割合
2. 夜勤体制の手厚さに潜在する離職リスク
夜勤に従事する職員数と退職者数の関係を分析したところ、介護サービス種類や施設規模(定員数)・地域性等を調整しても、夜勤に従事する職員の多さは当該施設の退職者を増加させる傾向が確認されました(重回帰係数:0.505, P<0.000)。夜勤への従事は、生活リズムの不調や身体的負担につながり、離職の原因となることが知られています。介護サービスの利用者にとって、夜勤体制の手厚さは安心や安全につながる重要な要素である反面、従事者の負担軽減との両立が各介護事業者の課題と考えられます。

夜勤体制にも地域差、都市部や大規模施設で厚めの傾向
SCUELのデータから、主要な介護サービスにおける夜勤体制(夜勤従事職員の平均人数)を都道府県別に比較したところ、次のような傾向が見られました。
特定施設入居者生活介護(有料老人ホーム)
- 全国平均(2.3人)
- 最大値(兵庫県・沖縄県:2.9人)、最小値(富山県:1.0人)と、1.9人差
介護老人福祉施設(特養)
- 全国平均(3.7人)
- 最大値(東京都:5.0人)、最小値(長崎県:2.7人)と、2.3人差
介護老人保健施設(老健)
- 全国平均(4.2人)
- 最大値(東京都:5.8人)、最小値(鳥取県:3.0人)と、2.8人差
*( )内の数値:夜勤従事職員の平均人数。施設数が30以下の都道府県は対象から除外。
3. 加算から“合う職場”が見えてくる
人材紹介・派遣の現場では、加算の取得状況までを紹介判断に活かすケースはまだ少なく、「看取り加算がある=辞めやすい」などのイメージが先行している現状があります。
しかし実際のデータからは、看取り加算や処遇改善加算の有無と退職者数に明確な相関は見られず、加算だけで離職傾向を一律に語ることはできませんでした。
とはいえ、加算情報が意味を持たないわけではありません。
むしろ、看取り、褥瘡ケア、夜間対応といったスキル・ケア領域の傾向は加算の種類から読み取ることが可能です。
看護師や介護職員が持つスキルや希望(例:看取りの有無、医療的ケアの比重、夜勤対応のスタイル)に合わせたマッチングを行ううえで、加算情報は“職場の中身”を見える化する手がかりとなります。
つまり、「辞めやすさ」ではなく「合いそうかどうか」を読み解くデータとして、加算は今後の紹介判断において有効に活用できる資源なのです。

看取り加算の届出率に見る地域差
介護施設が終末期ケアの体制を整えているかどうかを示す「看取り介護加算」の届出状況について、SCUELデータベースをもとに全国の都道府県を比較したところ、届出率には地域によって大きな差があることが明らかになりました。
介護老人福祉施設(特養)
- 全国平均(55%)
- 最大値(長野県:82%)、最小値(熊本県:18%)と、64pt差
特定施設入居者生活介護(有料老人ホーム)
- 全国平均(45%)
- 最大値(兵庫県:63%)、最小値(香川県:10%)と、53pt差
*( )内の数値:看取り加算届出率。施設数が10以下の都道府県は対象から除外。
■これからの人材紹介・派遣に求められる視点とは?
「看取りがあると辞めやすい」「加算があれば安心」——。 こうした印象や経験則のみに頼ったマッチングでは、早期離職のリスクを十分に見極められない可能性があります。
本分析では、退職者数と夜勤体制・経験構成・加算の種類との間に一定の関係が見られた一方で、単純な加算の有無や業務負荷だけでは読み切れない施設の特性が存在することも示されました。
たとえば、
- 夜勤体制や経験年数の構成は、「新人が定着しやすいかどうか」の一つの兆しとなり得ます。
- 加算情報からは、看取り、褥瘡ケア、夜間対応などの対応力やスキル要求の傾向を把握することができ、職員との相性を考えるうえで参考になります。
こうしたデータを活用することで、紹介先施設の特徴をより丁寧に理解し、ミスマッチの防止や定着支援につなげていくことが可能になります。人材紹介・派遣に携わる事業者にとっても、施設理解の解像度を高めることが、紹介の質をさらに高める手がかりになるのではないでしょうか。
■定着まで見据えた質の高い介護・看護人材の紹介実現に向けて
ホワイトペーパー無料公開中
『離職リスクを見える化する3つの視点:介護人材紹介の現場で使える施設理解のヒント』
本ホワイトペーパーでは、
- 都道府県別・主たる施設種類別の「従業員の介護・看護経験年数」
- 都道府県別・主たる施設種類別の「夜勤の人数体制」
- 都道府県別・主たる施設種類別の「看取り看護加算届出率」
という3つの視点から、都道府県別・主たる施設種類別に施設の特徴を集計。地域別の離職リスクや職場環境の傾向を読み解くことで、定着しやすい職場を見極めるヒントとして、介護人材紹介・派遣業務に携わる皆様のマッチング精度向上に役立つ情報としてご活用ください。
介護データベース「SCUEL(スクエル)」は、人材紹介・派遣会社や介護事業者が必要とする施設単位・法人単位の情報を体系的に整理しています。データを活用することで、従来は見えづらかった**離職の“予兆”**や、職員との相性を考えるヒントが、客観的に捉えられるようになります。
現場の「なんとなくの印象」や属人的な判断に頼らず、データに基づくマッチング判断の補助線としてご活用ください。介護事業者にとっても、人材定着に向けた課題の振り返りや、他法人や施設との比較を通じて、自施設の運営体制の見直しに役立つ視点をご提供。人材の採用・配置・育成において、定量的な傾向把握や施設比較の材料としてもご活用いただけます。
離職リスクを見える化する3つの視点:介護人材紹介の現場で使える施設理解のヒント
今後の展望
今回ご紹介した「離職リスクを見極める3つの視点」は、ミスマッチを未然に防ぎ、求職者様・紹介先双方の満足度向上に寄与するための重要なファーストステップです。
しかし、真に質の高いマッチングを実現するためには、施設ごとの退職者数や職員の経験年数構成、夜勤体制、加算状況など、より詳細かつ客観的なデータが欠かせません。
ミーカンパニーでは、介護人材紹介・派遣事業者様向けに、これらのデータを網羅した特別なパッケージをご用意しております。
- 営業活動を強力に後押しする「法人情報」や「管理者名」データのご提供
- 新規開設施設情報のリアルタイム提供による、いち早いアプローチ機会の獲得
- 施設の特徴を可視化することで、求職者様のご希望に沿った最適なご提案が可能に
ぜひ、SCUEL介護データベースを活用いただき、貴社のご活動にお役立ていただければ幸いです。